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平成の時代の遥か昔、日本海のどこかで、ふたつのワカメが漂っていた。
片方は普通のワカメよりも長く、幅も広い。
もう片方のワカメは普通のワカメより短く、幅も狭い。
そうなったのは大きな意地悪ワカメが、痩せっぽワカメの栄養まで奪ってしまったからだ。
意地悪ワカメは痩せっぽワカメの栄養を取るだけじゃ飽き足らず、寄ってきた小魚達を驚かせて遊んでいた。
「ワカメ様を隠れ蓑にしようとするとは生意気だ。お前らなんかこうしてやる!」
意地悪ワカメは大きな体を揺らして、小魚達を叩き出した。
「いててっ、なんて傲慢チキなワカメなんだ!」
小魚達は文句を言いながら、他の海藻を探しに行った。
「君、そんな意地悪ばかりしちゃいけないよ」
痩せっぽワカメは、なだめるように言った。
「うるせぇ、そんな事言うならお前が小魚共をかくまえばいいだろう」
「そんなことしたって君、追い出してしまうじゃないか」
「目障りだから追い出すんだ。あんまりガタガタ言うと、お前なんか引き抜くぞ」
意地悪ワカメは大きな体を、余計大きく見せながら言った。
こうなると痩せっぽワカメは、黙ることしか出来なかった。
ある日、ワカメ達の上を人魚達が通った。
「なんて美しい娘さん達なのだろう」
痩せっぽワカメは、楽しそうに泳ぐ人魚達を眺めながら言った。
「俺様は優しいから、どれ、お前の望みを叶えてやろう」
意地悪ワカメはそう言うと、近くを通りかかった子供の人魚を捕まえて引きずり下ろそうとした。
「君、僕はそんな事望んじゃいないよ。今すぐやめるんだ!」
「そんな事言うなよ、近くで見せてやるよ」
意地悪ワカメは、更に強い力で人魚の尾ひれを引っ張った。
子供の人魚は屈んで意地悪ワカメをどうにかしようとするが、その手すら掴まれてしまった。
「いい加減にしろ!」
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