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ほほを伝う涙が止まりません。ティッシュで鼻をかむこともできません。
「出ていって。出ていってよう」
ゆみこは、うずくまったまま叫びました。
くやしいのと、怖いのと、頭にきているのと、情けないのとで、心がかき乱されます。
子どもが泣き叫ぶのを見るのがうれしいのか、化け物はそこら中を跳ねまわりました。
「じいちゃんか、母ちゃんか、それとも……」
オドロゲは、ピタリと言葉を止めました。
動物がにおいを嗅ぐ時のような、鼻を鳴らす音がします。
「なんだ、これ。こんな小さな服、だれが着るんだ?」
化け物は、産衣を一枚一枚ひろい上げては、においを嗅いでいるようです。
「そうか、そうか。赤子がいるのか。女の赤子がいるのか。におうぞ、におうぞ。おまえと同じにおい。さては妹だな」
オドロゲは猫なで声をだしました。
まるで大好物のエサを見つけた動物のようにはしゃいでいます。
ゆみこの口から、思わず化け物がとびのくほどの大声が出ました。
「妹でいいわ! だから、早く出ていって」
「妹だな。それで、いいんだな」
「いいから、早くこの家から出ていってよ」
するとオドロゲは、低くかすれた声でしめくくりました。
「決めたぞ。おまえは、この産衣を着る女の子にさわれない」
へっへっへっと、さも満足そうに笑います。
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