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ゆみこは二階の窓から、遠ざかって行く車に向かって文句を言いました。
なにがあっても玄関や勝手口を開けてはいけないと言われているので、ママたちを見送るにはそこしかなかったのです。
「はやく帰ってきてね」
階段を下りると、家のあちこちがぎしぎし鳴りました。
古い家なので、こわれないかと心配になります。
使いこまれた木の階段、床や柱は黒ずんでいて、見るからにぼろでした。
台所の柱にかけられている「柱神の面」が、かたかたと音を立てます。
ゆみこはおどろいて目をこらしましたが、変わったところはありません。
なん百年もむかしからあるという、しわくちゃじいさんのような木彫りの面が、柱に打ったかけ釘にひもで吊るされているだけです。
ゆみこは階段のゆれが、台所まで伝わったからだと考えました。
「古いおうちだもの。しかたないのよ」
ゆみこはため息をつきました。
自分の家――新しくてきれいなマンション――に帰りたくなったのです。
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