ゆみこと柱神《はしらがみ》さま

21/22
前へ
/22ページ
次へ
しばらくだまって(かんが)()んでいたおじいちゃんは、箪笥(たんす)から(しろ)(ぬの)()()して、小刀(こがたな)半分(はんぶん)()ちました。 そうしてこさえた()ぬぐいで、ゆみこの(かお)をごしごしと()きます。 不思議(ふしぎ)なことに、()っ白だった布はみるみる(くろ)くなって、真っ黒だった顔がきれいになっていきました。 「なんのためにこんなことをしたの?」 (もと)どおりになった顔をなでながら、ゆみこは(かみ)さまのいたずらに文句(もんく)を言います。 おじいちゃんはひざを(たた)いて(わら)いました。 「じゃがな、ゆみこ。柱神さまは、ただいたずらをしたわけではないよ」 そう言われても納得(なっとく)がいきません。 ゆみこはほほをふくらませながら、(くび)をかしげます。 おじいちゃんは顔を拭いた布を(ひろ)げてみせました。 「あっ、柱神さま」 白い手ぬぐいの真ん中に、台所の柱にかかったお面そっくりのぶさいくな顔が、黒く、くっきりと(うつ)し出されています。 (さる)みたいで、しわだらけで、口なんて(よこ)一直線(いっちょくせん)のみぞにしか見えません。 でも柱神さまのお面にあいているふし(あな)とは(ちが)い、その目は(ほそ)(せん)になっていました。 少しだけ目じりが下がっています。 ゆみこには、神さまがにっこりと笑っているように見えました。 「これを持って帰ったらいい。柱神さまが、ゆみこの家も守ってくださるにちがいない」 おじいちゃんから手ぬぐいを()()ると、ゆみこはそれをたたんで、ママが()ってきたカバンの上に置きました。 こうしておけば、ほかの荷物(にもつ)といっしょに家へ持って帰ってくれるでしょう。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加