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階段から、ひたっ、ひたっと足音がしました。濡れたモップを引きずるような音もします。
なにかが下りてくるのに、階段はきしむ音をたてません。
人ではないからだ。
そう思うと、ゆみこの胸がぎゅっと絞られました。
「わしを柱にもどせ」
ゆみこは不安でいっぱいでしたが、柱神さまの声に引き寄せられるように近づきます。
「いそげ。早く元どおりに」
ゆみこは床に落ちたお面の前に、転ぶようにしてひざをつきました。
足がふるえて、もつれてしまったのです。
「だめ。あんな高いとこ、とどかない」
じぶんで落としてしまったお面をひろい上げ、ゆみこは必死でうったえます。
「お前がこまいのを忘れておった」
柱神さまはため息をつきました。
木で作られたお面の細く開けられた口から、声がします。
「柱にかかってさえいれば。化け物など、この柱神と面と向かうこともできないのだが。床に落ちていては、わしも力が出せぬ。仕方ないのう」
オドロゲが階段を下りて部屋に姿をあらわしたとき、ゆみこは台所の床で手足をちぢめて亀のようにうずくまっていました。
けっしてオドロゲの目を見てはいけないと、柱神さまに教えられたからです。
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