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化け物は悪いやつだと、神さまは告げました。
だれかが一人でいるところを見かけると、しつこく付きまとい、おどしたりだましたりして、うっかり目を合わせた者を食うのです。
化け物は天井に届くほど大きく、黒く、毛むくじゃらだそうです。
ゆみこは頭の中にオドロゲを思い描きました。
ぞうきんバケツの水をしたたらせた、不潔で巨大なネズミに似た姿が浮かびます。
「化け物って、そういうものだわ」
「キュッ」
ゆみこのひとりごとに返事がありました。
動物の赤ちゃんが立てるような声です。
うすく目を開けて、そおっと階段のあたりを見ると、クリーム色のぬいぐるみが見えました。
短い足でこちらへ向かってきます。
ゆみこが寝るときに抱っこするテディ・ベアに似ていました。
まだ顔は見えませんが、たれた長い耳が体の動きに合わせて左右にゆれています。
「やだ、かわいい」
もっとよく見たくなって顔を上げようとすると、柱神さまのお面が動きました。
身をよじって、ゆみこの手からとび出すほど暴れます。
あわててお面を胸に抱くようにして、体の下に押さえ込みました。
「顔を上げてはいかん。目を見てはいかん」
見たところ、とてもそんな恐ろしい化け物とは思えません。
でもおじいちゃんが毎日手を合わせて拝んでいる神さまの言うことです。
ゆみこは信じることにしました。
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