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子犬が歩くようなかるい足音が近づいてくると、つんとすっぱいにおいが鼻を刺激しました。
急にのどがいがらっぽくなって、ゆみこは咳きこみます。
「だっこしてよ」
オドロゲが出しているのでしょうか。
鼻にかかった声がしました。
先ほどのぬいぐるみのような姿を思い浮かべて、「いいわ」と答えたくなりましたが、鼻が曲がるようなにおいのせいで咳が止まりません。
返事をしないでいると、舌足らずの言葉でオドロゲが甘えてきました。
「ねえ、だっこしてよ」
ゆみこは左手で鼻をつまみながら答えます。
「いやよ。くさいもの」
「なんだって。おれ様がくさいだと」
オドロゲの声はガマガエルのように低く、にごっていました。
いらだっているのか、たまに金切り声がまじります。
「だって、本当にくさいもの」
ゆみこの目から、涙がこぼれます。
「こんなきゅうくつな格好はやめだ、やめだ」
オドロゲは急にわめき散らして、それまでかぶっていたぬいぐるみを破き始めます。
どうやって中に入っていたのか、天井に頭がつかえるほど背の高い、黒い毛におおわれた化け物が姿を現しました。
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