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陽太のお母さんに挨拶をして家を出ると、自然と鼻歌がもれた。
彼がくれた飴の存在が嬉しくて、じっとそれを見つめて歩いていた私は、そのままの勢いで前から歩いてきた人にぶつかりそうになった。
「すみません!」
と慌てて頭を下げ、相手が不思議そうな顔で会釈をしたのを確認すると、私ははっと現実に戻った。
いけない、いけない。帽子……。
その人と離れた後、慌てて目深に帽子をかぶった。
このへんは知り合いも多いから気を付けないと……。
変な噂が広まったら、事務所の人にも迷惑をかけてしまう。
何もできない分、これくらいのプロ意識は持たないと。
帽子の中の髪を整えた私はふーと息を吐き、駅を目指した。
パッケージから一つだけ取り出した飴を口に入れると、その甘い香りが鼻の奥を刺激した。
やっぱ、これこの世で一番おいしい飴かもしれない。
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