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「そう。あの子、これまでも実は何度かオーディション受けてるのよ。でもね、高校生の時は大人っぽすぎて高校生に見えないとか、綺麗すぎて脇役に向かないけど主役にしては顔が強すぎるとか、背の高さが相手役に合わないとかね。とにかくなかなかうまくいってなくて。最近では少し諦めているような節があるけど、それでもやっぱり根底には女優になりたいって気持ちがあると思う」
全然知らなかった。
ずっと一緒にいたのに……全然。
「だから、あの子にはまだ言わないで。私からちゃんと説明するから。あなたたちの関係は崩したくないしね」
それがビジネス的な意味なのか、私たちを思ってのことなのか読み取ることはできなかったけれど、私は素直にその言葉にうなずいた。
「じゃあ、撮影日が決まったらまた連絡するから。お疲れ様。あっ、今後の行動はこれまで以上に気を付けるように」
「気を付けて帰れよ」
社長の言葉にペコリと頭を下げて部屋を出るときには、二人は別の仕事の話を始めていた。
「失礼しました」
と扉を閉めた後、私は台本を握る手に力が入っているのに気づき、その手を緩めた。
何だか嫌な予感しかしないな……。
重くなる気持ちをすべて外に吐き出すように、私は大きく息を吐いた。
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