予兆を告げる雷

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病室が近づくにつれすれ違う人の数が減っていく。 コツコツと響く自分の足音が何だか少し、気持ちを不安にさせた。 「すみません。お見舞いに来たんですが」 ナースステーションでそう言った後、名前を記入する手を私は一瞬ピタリと止めた。 念のため偽名の方が良いかもしれない……。 思いついたまま“天野玲”と名前を記入した後、身分証確認はないよね?とドキドキして看護師の動きを見つめたけれど 「はいどうぞ」 とあっさり通してもらうことに成功した私は、ほっとして陽太の病室を目指した。 部屋は一番奥にあった。 “特別個室”と書かれたその下には私が書いたのと同じように偽名が書かれていた。 お父さんがそうさせたのだろうか……。 嫌悪感を抱えたまま、ドアを開けると、中にいる陽太がゆっくりとこちらに視線を向けた。
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