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陽のあたる方へ
「そろそろ郵便取りに来たら」
月に一度、母からそんな電話がかかってくる。
実家までは現在の自宅から電車でたったの30分。
行こうと思えばいつでも行けるという状況が逆に足を遠のかせているのは間違いない。
住所を今住んでいる家に移さないのは、多少なりとも有名人になってしまったことによる自己防衛だ。
実際、実家にはこれまで3度、見知らぬ人から私宛の手紙が投函されていたことがあるという。
駅に着き、改札を出るとそこは既に閑静な住宅街と言った佇まいで私を出迎える。
日焼け防止の日傘をさし、コツコツとヒールを鳴らして街を歩く。
中学の頃の私はきっとこんな未来、想像もしていなかっただろう。
駅から歩いて10分ほどで実家の前の通りに差しかかった。
外に干された洗濯物にちらりと目をやった後、ドアを開け
「ただいまー!お母さん、洗濯物取り込んだら~?15時くらいから雨だってよー」
と声を張ると
「やだ!本当にー?」
とパタパタと廊下に出てきた母は
「おかえり」
と私に伝えた勢いで階段を駆け上がって行った。
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