陽のあたる方へ

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「なんでお兄ちゃん、そんなこと知ってるの?」 「仕事の取引先に殴られた張本人がいるんだよ。酒飲むといつもその出来事を武勇伝みたいに話す」 心底軽蔑したようにそう言った兄は 「晴山って言うんですけどね、あっもしかしたら天野さんご近所じゃないですか?……ってもうそのセリフも何度言われたことか。あいつ俺が近所に広めるとでも思ってるのかね。あほらしい」 とため息をついた。 馴染みのある地元に職場があるというのは、それはそれで苦労もあるのかもしれない。 どこか冷静にそんなことを考えている私に向かって兄は 「あっ、この話、母さんには言うなよ。すぐ近所に広まるから」 と釘を刺した。 「うん。もちろん。ところで今彼が何をしてるかなんてのは……?」 「知るわけないだろ。俺も知り合いじゃないし、そいつも殴られた相手にはさすがに会いたくないだろうし。ただ、退学以来誰も連絡を取ってないはずとは言ってたな」 「そっか」 「気になるなら行ってみればいいじゃん。すぐそこなんだし」 私の気持ちを悟ったようにそう言った兄の言葉に私はブンブンと首を振った。 彼と対峙したって自分が傷つくだけだ。 「ふーん。まっ、いいけど」 そう言ったきり兄は再びゲーム機へ視線を移し、それ以上口を開くことはなくなった。 そう簡単に引き下がられると何だか妙に気になってしまう。 再び静かになった部屋で、私は郵便物に目を移したがその文面は一文字たりとも頭に入ってこなかった。
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