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「ごめん。お兄ちゃん、私今日は帰る」
「えっ?」
荷物を抱え、外に飛び出すと玄関先で隣のおばさんと話す母に出くわした。
「あれ?帰るの?」
「ごめん!お母さん、また来るから!」
「まぁ、恵ちゃん?また綺麗になって~おばちゃん応援してるからね」
その言葉に思わずはっとした。
「ありがとうございます。嬉しいです!失礼します」
できる限りの愛想をふりまき、その場を立ち去るとふーと息を吐く。
有名になるということは、いつでも気を抜けないということだ。
ちょっと眉間にしわが寄っていただけで
「感じが悪い」
とネットに書かれる時代だ。
私はできるかぎりそういう失敗はしたくなかった。
自分を見失って傷つくのはあの日で懲りている。
なのに今、私はいったい何をしようとしているのだろう。
家から少し離れた通りに出ると、自然と背筋が伸びる。
モデルになってから、いつも誰かに見られているという意識を忘れたことはない。
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