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再び裏通りに入ると、私はカバンに入れていた帽子を目深にかぶり、なるべく速足で目的地を目指した。
『晴山』と書かれた表札の前にたどり着くと、まずは外から中を観察する。
留守だろうか。妙に静かだ。
意を決してチャイムに手をあてると、指先が少しだけ震えた。
ピンポーン……。
全身に緊張が走った後、耳を澄ませ声がきこえてくるのを待った。
……出ないか。
どこかでほっとしていた。
勢いに任せてここに来てみたはいいものの、実際、陽太と会ったところで自分が何をしたいのかさっぱり分かっていなかった。
本当に引きこもりになったんですか?
よくよく考えたらそんなこと聞いたところでいったい何になるのか。
そうですよと言われても違いますよと言われても、私には関係ないことだ。
陽太だって、彼の人生に私が関わってほしいなんて1ミリも思っていないだろう。
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