陽のあたる方へ

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「……どうぞ、入って」 低い声でそう言った彼女は、玄関のドアを開けると私を中に入るよう促した。 「えっ?」 「用があるんでしょ?」 その言葉に思わずコクコクとうなずいて、私はゆっくり玄関に足を踏み入れ帽子を脱いだ。 ちらりとこちらを見た後、歩き始めた彼女に身を任せるように後を追い、リビングに通された私は、 「お茶入れるから座って」 という声に従い、恐る恐るソファーに腰をかけた。 陽太の家には何度か入ったことがある。 でも、それは部屋でゲームをするとか、漫画を読むとか、そういう状況の時ばかりで彼の部屋以外に通された記憶はないに等しかった。 なじみのないリビングの雰囲気に落ち着くことができず、私はちらちらと視線だけで周囲の様子をうかがった。
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