陽のあたる方へ

19/42
前へ
/359ページ
次へ
その声は確かに聞き覚えのある陽太の声だったけれど、私の知っている彼が発した言葉とはどうしても思えなかった。 「陽太、なんで……」 「黙れ。うっさいんだよ、さっきから」 その声に少し怖さは感じたものの、私はやはりどこかで自惚れていた。 彼は私を攻撃したりしない。 どんなに冷たい目を向けられても、どんなに距離を置かれても、彼は私を表立って攻撃したことは一度もなかった。 きっと大丈夫。 話せば伝わる。 私は体をドアから離すことなく、話を続けた。 「あのね、私はただ陽太に何かできることがあるならしたいなって」 「……どうせ笑いにきたんだろ」 ドアの向こうの顔は見えないのに、なぜかその声だけで陽太の姿が目に浮かぶようだった。
/359ページ

最初のコメントを投稿しよう!

347人が本棚に入れています
本棚に追加