陽のあたる方へ

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私は時計をみつめ陽太に言葉を投げた。 「じゃあ、今日はそろそろ帰るね」 そう言って、洋服に髪の毛がついていないことを確認すると、私は部屋のドアに手をかけた。 「あめ!!」 「んっ?」 「ありがとう……髪」 「うん!」 私はできる限りの笑顔でうなずき部屋の外に出るとパタリとドアを閉めた。 その瞬間、どっと涙がこみあげてくるのが分かった。 久しぶりに“あめ”と呼ばれた。 最初は実感のなかった彼の姿が、確かに陽太なのだと感じた。 溢れる涙をぬぐい、私は荷物を持つと階段を降りた。 その音に反応するように廊下に出てきたお母さんに涙を悟られないよう 「おじゃましました」 と笑顔を向け、私は急いで家を出た。 ふっと見上げた空はどこまでも青く、強い日差しを私に浴びせた。
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