雨色のキャンディー

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私はこれまで麻帆の誘いをほとんど断ったことがない。 友達が麻帆しかいないから、という言葉にしてみると悲しい現実のせいもあるが、彼女といるときは自分自身も楽でいられた。 私が陽太に振られた後、さんざん傷ついた過去も知っている。 そして、その話を彼女は誰かにしたことはない。 私が何か悩みを打ち明けられるなら、それは麻帆だけだった。 「あのね……」 一瞬、陽太のことを口に仕掛け私は言葉を止めた。 いや、さすがの麻帆でも陽太の話は簡単に受け入れられないんじゃないだろうか。 さんざん傷ついて、そのたび麻帆に励まされてここまできた。 それなのに、またここで彼の名前を出したら……。 麻帆はどんな顔をするだろう。 ちらりと彼女の表情をうかがうと麻帆はんっ?と首をかしげこちらを見つめ返した。 「ほら、課題もなかなか片付かなくて……」 苦笑いでそう言った私に麻帆は 「あぁ……そっか。うん、じゃあ仕方ないね。また今度」 と笑ってみせた。
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