雨色のキャンディー

23/26
前へ
/359ページ
次へ
「モデルやってると、カメラの前では笑顔を作らなくちゃいけないでしょ。どんなに嫌なことがあっても、笑うことが仕事だから。でも不思議だけど、無理やり作った笑顔でもそれを見て“元気になります”って言ってくれる人がいるの。そういうの聞くと、もう嘘とか本当とかどうでもよくなっちゃうんだよね。誰かが喜んでくれた。それで良いかって」 開き直ったようにそう言った私を見て陽太は少し悩み 「そういうもん、かな」 とつぶやいた。 「そういうもんだよ」 それ以上、私は陽太を諭すようなことを言うのを辞めた。 彼は彼なりに自分と向き合って心の整理をしている。 そこに踏み込み始めている私は、少なくても“土足で踏み込まない”くらいの配慮はしているつもりだ。 それが陽太に伝わっているかは別として……。 「さっ、じゃあ片付け再開!」 そう言った私の号令に従い、陽太はゴミ袋を抱え、てきぱきと作業を始めた。
/359ページ

最初のコメントを投稿しよう!

347人が本棚に入れています
本棚に追加