Answer編

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 キッチンでは冷蔵庫を開けて中の物を確認している優斗に、涼がねぇと声をかけた。 「なに? 冷蔵庫何もないや。買出しに行こうか」 優斗さん、向こうでどんな……トラブルがあったの?」  まさかそんな事を聞いてくるとは思わなくて、優斗はびくんと体を硬直させたのが分かった。静かに屈んでいる体を伸ばし、ゆっくりと冷蔵庫の扉を閉めた。 「まぁ……話すとすごく長いんだけどね。携帯とか文明の利器ってさ、良いこともあれば、悪い事もあるんだなって……そんな事を改めて教えられたんだ」  涼に背中を向けて話していた優斗は、振り返ってキラキラ笑顔を向ける。何かを悟った静かな声とは裏腹な、その表情に涼は目を丸くして驚いた。聞きたかった答えとは程遠い返答に、もっと突っ込んで聞いてみたいところだったけど、なんとなくそんな雰囲気を壊された。 「へ、へぇ……そうなんだ……」 「よし! 買出しに行こうか、涼くん!」  驚いたまま立ち尽くした涼の手をつかんでリビングへ戻る。相変わらず涼と雅美の経緯をあーでもない、こうーでもないと言い合っている2人。買出しに行くと言ってその返事も聞かずに玄関へと向かった。  背後から聞こえる2人を呼ぶ声を、知らん振りでかわして玄関を飛び出した。 「涼くん、スーパーに着くまでに、向こうで何があったか聞きたい?」  悪戯っぽく微笑む優斗に、涼はキラキラと瞳を輝かせて見上げた。 「聞きたい! だって、心配だったし、優斗さんすっごく意味深な言い方するしっ。何よりさ、なんか……優斗さんがキレイになったって言うか、柔らかくなったって言うか、ほんわかしたような気がするんだ」 「そう? 僕、そんなに変わったかなぁ? 涼くんだって変わったと思うよ?」 「俺がっ!?」 「うん、大人っぽくなったのか……それとも、言葉どおりに大人になったのかな?」  ニヤニヤと涼を見ながらワザとらしくそう言って、優斗は珍しく声を上げて笑った。言われた意味を知って、涼は真っ赤になって反論しようとするが、言葉が出ないで口をパクパクさせるだけだった。 「じゃあ、ヨーロッパで何があったか、話しながら行こうか」  二人は肩を並べてゆっくりとした歩調で、スーパーへと足を向けたのだった。 【Fin】
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