第一章

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○    ●    ○  涼の手を引いて歩き出した雅美は家の角を曲がってスッと離した。その顔はさっきと違うどこか大人びた感じだ。襟足の長いストレートの髪が、街灯に照らされて微かに青みがかって見えた。整えられた眉と少し頼り気のないすらっとした鼻筋は、美男と言う言葉が合う感じである。 「あの……水島……さん?」  何の説明もなく歩き出した雅美におずおずと声をかける。近寄りがたいオーラを放つ彼に借りてきた猫のようになってしまっていた。 「雅美、俺の事は雅美さんって呼ぶこと」  立ち止まって振り返った雅美は、さっきとは違ういたずらっぽい笑みを浮かべている。ころころと印象の変わる彼に、涼は呆気に取られてしまった。 「は、はい。それであのっ、どうして急にコンビニなんて?」 「野暮だなぁ……俺たちはどう見たってあの場面、お邪魔虫だよ」  その言葉に涼はハッと何かに気が付いて伏せ目がちになったその瞳は、悲しそうな色を滲ませた。自分は邪魔なのかと、改めて思い知らされズキズキと胸の傷が痛んだ。 「それにしても……涼くんって薫と似てないね。 髪とか超茶色で猫っ毛だし。お目目ぱっちりで頬もすべすべプニプニ。小さい唇に、長い睫。女の子みたいにかわいいねぇ」  言いながら頭をくしゃりと撫でられ頬を両手で摘まれた。痛くはなかったが、初対面の人にここまで弄り倒されたことのなかった涼は、とたんに噛み付いた。 「ちょっと! やめてくださいっ。俺は犬じゃありません!」  雅美の手を払いのけてそっぽを向いた涼は、彼の態度の豹変に内心ドキドキしていた。掴み所のないその行動に振り回されっぱなしだ。  少なからず子供っぽい容姿はコンプレックスなのである。ましてや、今日の今日会った人に言われたくない。四人並ぶとたぶん涼は一番身長が低いし、運動をしてもなかなか付かない筋肉。食は細い方ではないのに元々太らない体質なのか、後姿だけなら女性と間違えられてもおかしくなかった。 「かーわいっ。そんなかわいい反応してたら、いつか狼に食われちゃうよ?」  カラカラと笑いながら再び歩き出した雅美の後を、唇を尖らせ眉根を寄せたまま付いて行った。さっきまでの痛む胸のズキズキも醜いほどの黒い嫉妬心も、どっかに消えていることに気が付かないほど、彼のペースに飲まれていた。 「さてーなに買おうかな」
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