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「薫……さん?」
そこに居たのは昔からよく遊んでくれていた上原薫だった。二十四歳にして輸入家具を扱うお店の社長をしており、何より優しく涼の事をかわいがってくれた歳の離れた叔父である。いつでも誠実に振舞う薫に、涼は憧れと恋心を抱いていた。
喪服の上からでも分かるすらりと伸びる両腕と、頼りがいのある胸板と肩。何もかもが涼の心を捉えて離さない存在だった。全てを委ねても大丈夫という包容力のあるそのオーラは、一緒にいるだけで安心できる。綺麗な二重の瞳は伏せると一際目立ち、堀の深い顔立ちが日本人離れしたイメージを持たせている。美丈夫という言葉がピッタリと来る風貌だ。
彼は優しい視線を涼に向けたまま、そっとその隣に腰を下ろした。細くてしなやかで少し冷たい指先でサラリと後頭部を撫でるそれは、ゆっくりと宥めるようだった。彼の腕が涼の肩を抱き自分の方へ傾け、スッポリとその腕に包まれると、ふわりとオーデ・トワレの大人の香りが鼻孔を掠めた。
「一人じゃないから。俺がそばに居るから、大丈夫」
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