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都心より少しはなれた郊外で、庭のそこそこ広い木造の一軒家。思い出のたくさん詰まったこの家で生まれ、両親が亡くなって大学生になった今も薫と二人で住んでいる。
そこに優斗が薫を訪ねてやって来ていたのだ。ただですら薫に対して特別な感情を抱いている涼にとって、恋敵にもならない恋人と対峙することは苦痛の他以外になかった。
幼い頃から何かを遊んでくれた薫に、母親がなくなってからは二人の生活が始まり、憧れから恋心に変わるまでそう時間はかからなかった。
男同士という倫理的に反するものがあったとしても、気持ちを抑える事など経験のない涼に出来るはずもなかったのである。日に日に募っていく淡い想いはいつ弾けてもおかしくなかった。
そんな時。
初めて恋人として優斗を紹介された涼は、薫の恋愛対象が男性であった事を知って歓喜し、そしてすぐにそれは苦界に突き落とされてしまったのである。
しばらく部屋に篭り、出てこないというストライキ染みた事をして、薫を困らせた事があった。とにかく、優斗と二人になる事は涼にとって避けたい事なのだ。
「少し、話さない?」
ティーカップを持った優斗は、ゆらゆらと上がる湯気の向こうにいる涼を見つめた。向かいに座った涼はきっちりと正座をして、同じようにカップを手にしていた。
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