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真っ直ぐに見つめるその瞳は、何かを知っているのかそれとも何かを聞きだそうとしているのか。涼にとっては不安にさせられるものだった。
「は、はい……良いですけど……」
返事の後に気まずいほどに流れる沈黙が、涼の心拍数を上げて行く。
(な、何なんだ……この沈黙。薫さん早く帰って来てよっ)
「涼くんは、恋人とか……いないの?」
すぐに答えられられない質問をされてグッと息を飲んだ。脳裏に浮かんだのは薫の姿だったが、冗談でもそんな事は言えない。視線を逸らして手に持ったカップを見つめた。
「い、今は、いないです……けど」
普通に返事をしたつもりだったが語尾がドンドン小さくなっていった。まるで会社面接のように緊張して、ドクドクと打つ心臓の音が自分の中で反響している。
「ふーん……今はって事は、前は……いたんだね」
揶揄するような言い方で涼を追い詰めて行く。優斗がなぜそんな質問をするのか涼には全く見当が付かなかった。ただの興味本位ならばそれで良いのだが、もしかして自分が薫に対する気持ちを知っていて聞いてきているのではないかと、疑心が胸の中に広がっていく。
「ま、まぁ……人並みには……」
そう言うと間を繋ぐように一気にカップの紅茶を飲み干した。これ以上聞かれてはどう答えて良いか分からないと思っていた時、玄関先で扉の開く音が聞こえた。
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