好きになったみたい

プロローグ

　重く暗い空が立ち込めて、足元から凍らせてしまうくらいに冷え込んだ冬だった。

　辺りで人の啜り泣く声が聞こえている。母の隣に座らされて中央に立てられてある父の遺影を見つめていた。菊の供花が父の周りを飾り、まるで雪の中で眠っているような感じだ。

　立てられた線香の煙が細く緩やかに立ち昇り、天井に付く手前で辺りに霞をかけて消えてゆく。その時はまだ人が死ぬと言うことがどういう事か理解できない程、彼は幼い年齢だった。

　銀行員だった父は几帳面だった。家では良いパパで、よく休みの日には公園へ連れて行ってくれた。

　頼まれると断れない性格の優しすぎる父は、仕事のミスを同僚に押し付けられ、強く否定出来なかった為に全てを被り、上からの厳重注意と減給を言い渡された。

　社内でのあからさまないじめのような行為が続き、それでも家族には話すことなく毎日通い続けた結果、体を壊し心を壊しそれが引き金となってかえらぬ人になってしまった。
　弱かった。
　そう言ってしまえばそれまでなのだろう。家族には心配をかけたくないという一心で相談をしなかった。家では良い父、良い夫で居たかったのだろう。