最終章

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 千草と別れ、部屋のドアに手をかける。 「あ、あれ?」  真っ暗な部屋。  思わず気が抜けてしまう。 「右京まだお風呂か」  かすった期待と、こみ上げる安堵。  並べて敷かれた布団の端に思わず座り込んだ。 『やっぱ熱海城だろ!』  お土産屋さんの刀を持ってはしゃぐ姿。 「可愛かったな、右京」  思い出して頬がゆるんだ。 『今日はここまで!』  賑わうビーチ。  もう一度泳ごうと、一人海へ入ろうとすると、私に声をかけようとした大学生を見つけたらしい。  慌ててそう言い、迎えに来た。 「やきもちやき」  みんなにニヤニヤされて恥ずかしかったけれど、あんなに慌てる右京はやっぱり可愛かった。  夕食の時も、そのあとの卓球も、1から10まで全てに一生懸命。 『よっしゃあぁぁ!!』  卓球対決で他の2チームに勝った私たち。  最後にスマッシュを決めた右京がガッツポーズをしたあと、私に向かって右手を出した。  パチンと響くハイタッチの音。  ――ただ見てるだけだったのに。  あの日、ガッツポーズを決めた彼と、今、隣にいる彼。  近付いた距離を思う。 「……泣いちゃいそうだ」  右京が戻ってきたら、素直に伝えよう。  大好きなこと。     
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