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『誕生日、一緒に過ごさないか』
夏休みまであとわずか。
やっと終わったテスト期間の最終日。
校門を出て、少し歩いたところにある遊歩道で彼は言った。
千草から聞いていたけれど、嬉しくて、嬉しくて、ふと立ち止まり彼を見る。
彼は、2、3歩進んだあと私に気付いて振り返ると、お日様よりも眩しい笑顔で手を差し出した。
繋いだ手から、『嬉しい気持ち』が伝わりますように。好きが溢れて止まらない。
私は世界一の幸せ者だ!
***
「晃ちゃん、虫に刺された?」
温泉の更衣室。
千草が言った一言に、晃は慌てて着替えの手を止め、胸元を隠した。
真っ赤になって黙る晃と、少しの沈黙。
そのあと、更衣室に響き渡る私たちの驚嘆の声に、回りのおばさんが一斉にこっちを見た。
3人とも口々に『すみません、すみません』と慌てて浴室に入ると体を流して湯船に浸かった。
普段より口数は少ないが、話しながら、照れくさそうに微笑んだり、時折、翔くんを思い出したりする晃は、とてもとても綺麗だった。
――わ、私もとうとう。
妙な緊張に包まれる。
エレベーターの階数が上がる度に心臓もどんどん上に上がってくるようだった。
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