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第一話
水道から水滴が滴り落ちる音で、星奈は目が覚めた。
まどろみと覚醒を繰り返し、深くは眠れていない。そんな日々を過ごしているから、疲れが取れなくて些細な物音でも目が覚めてしまうのだ。
もう何日も、まともに眠っていない。食事もほとんど摂っていない。
今日が何曜日で、今がいつなのかも、あまりわかっていない。
電気はつけず、カーテンを閉め切っていて、外界の変化をあまり感じないからだ。
朝起きて、カーテンを開けて一日を始めて、三食きちんと食べてまた眠るという健康的で当たり前な生活は、星奈の世界から失われてしまったかのようだ。恋人の瑛一と一緒に。
恋人の瑛一が死んだ。
そのことが星奈を蝕み、立ち上がれなくさせている。
事故の知らせを受けて病院にかけつけて、通夜と葬式に出てから数日の間は、泣き暮らしていてもまだ人間らしい生活ができていた。周囲の人間たちが、星奈がどうにかなってしまわないようにと気を配り、何くれと世話をしてくれていたから。
けれども、ひと度もとの生活を始めようとするとだめだった。
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