第一話

1/22
前へ
/187ページ
次へ

第一話

 水道から水滴が滴り落ちる音で、星奈(せな)は目が覚めた。  まどろみと覚醒を繰り返し、深くは眠れていない。そんな日々を過ごしているから、疲れが取れなくて些細な物音でも目が覚めてしまうのだ。  もう何日も、まともに眠っていない。食事もほとんど摂っていない。  今日が何曜日で、今がいつなのかも、あまりわかっていない。  電気はつけず、カーテンを閉め切っていて、外界の変化をあまり感じないからだ。  朝起きて、カーテンを開けて一日を始めて、三食きちんと食べてまた眠るという健康的で当たり前な生活は、星奈の世界から失われてしまったかのようだ。恋人の瑛一と一緒に。  恋人の瑛一(えいいち)が死んだ。  そのことが星奈を蝕み、立ち上がれなくさせている。  事故の知らせを受けて病院にかけつけて、通夜と葬式に出てから数日の間は、泣き暮らしていてもまだ人間らしい生活ができていた。周囲の人間たちが、星奈がどうにかなってしまわないようにと気を配り、何くれと世話をしてくれていたから。  けれども、ひと度もとの生活を始めようとするとだめだった。     
/187ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加