第十話

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「うえー。そんなにきつく締めないでくださいー」 「だめ。ここをしっかりしとかないと着崩れてみっともないよ」 「そんなにきつくしてないからねー」  幸香と二人でなだめながら、星奈はうめく夏目に浴衣を着せていた。腰紐を結んだくらいでこんなに大騒ぎするなんて、これから浴衣を着て歩けるのかと心配になる。 「よし。おはしょり、きれいにできた。襟の抜き加減はこのくらい?」 「夏目ちゃんは可愛い系でいくんだから、それは抜き過ぎじゃない?」 「了解ー」  幸香は星奈に確認しながら、手早く襟を調整していく。浴衣をきちんと着られている印象になるかどうかは、襟とおはしょりで決まると教えられているから、気が抜けないのだ。  その隙に、星奈は兵児帯(へこおび)に前板を仕込んで、結びやすいように形を整える。 「はい、夏目ちゃん。仕上げだよ。本当なら帯を締める前に伊達締めっていうものを巻くんだけど、夏目ちゃんは柔らかい帯にしたから締めません。で、今日教えるのは一番簡単なリボン結びだから、ちゃんと覚えるんだよ」 「はーい」  星奈は姿見で夏目に背後を確認させながら、ちゃっちゃのリボン結びを作って見せた。 「すごい! 簡単だった! 可愛い!」  着付けが完了すると、夏目はその場で何度も回転し、前から後ろから自分の姿を確認して大喜びしている。  夏目が着ているのは、白地に黒と赤のドットが散りばめられた浴衣だ。それに鮮やかな透け感のある赤の兵児帯を結んでいるから、腰で金魚が揺れているようで可愛い。
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