第十話

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「さあ、今度はあたしたちの番だよ!」 「気合い入れてこう」  ザッと全身の汗を拭って、幸香と星奈は今度は自分たちの着付けを始めた。  二人は慣れたもので、浴衣を羽織り、襟を合わせ、腰紐を結び、おはしょりを作るところまでは自力であっという間だった。そこまで仕上げると、次は互いの帯を結びあいこする。 「サチ、蝶結び、リボン返し、文庫だったらどれがいい?」 「えー……一番大人っぽいやつにして」 「わかった」  星奈は幸香の山吹色の半幅帯を手に少し悩んでから、結び始める。昨夜、忘れていないだろうかと復習がてら結んでみていたから、淀みなく結ぶことができた。 「はい、できたよ。リボン返し。可愛さもありつつ、帯の端が外にこうして出てるのが、ちょっと大人っぽいんじゃないかと」 「うん! すごくいい! 今日のは浴衣がシックだから、こういう結び方がいいね」  紺地に白の麻の葉模様の浴衣は、幸香のこれまでの趣味ではない。でも前川の隣に並ぶ大人っぽい雰囲気になりたいと、ちょっと背伸びして買ったのだ。帯が山吹色だから、地味になりすぎず、よく似合っている。 「じゃあ、次は星奈ね。結び方はあたしにお任せでいい? 今日のためにとっておきの結び方を会得してきたんだ」 「それなら、おまかせで」  幸香はウキウキしながら、一生懸命帯を結んでいく。でも、会得したばかりというだけあって、何度も結び直したりスマホでお手本を探したりと苦戦している様子だった。 「よし、完成! 後ろ、見てみて」 「わあ……可愛い!」 「花文庫って結び方だよ」  姿見で確認すると、帯は蝶がふたつ重なったように結ばれていた。蝶結びと文庫結び方が合わさったような、可愛らしくありながらもかっちりしている。 「初心者向けの結び方らしいから、練習したら簡単に結べるようになると思うよ」 「うん。頑張ってみる」 「それにしても、星奈は去年と同じ浴衣でよかったわけ?」  浅葱色に白い風車柄の浴衣とレモンイエローの帯は、去年着たものと全く同じものだ。 「うん、いいんだ。見せるの初めてだから」  そう言って、星奈は笑う。この姿を見て彼がどんな顔をしてけれるのか、何を言ってくれるのか、そう考えるだけで心が浮き立つ。
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