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「わあ……かっこいい!」
幸香は浴衣を着た前川が目に入った途端、感激して駆けていった。前川も、笑顔でそれを受け止める。
そんな二人を横目に、星奈はエイジと対峙していた。
何だか照れてしまって、どちらもはにかむだけでなかなか言葉が出ない。
「セナ、可愛い。すごくきれいだ」
「エイジも、すごくかっこいい。似合うね」
やっと言葉にできたのに、今度はそれがくすぐったくて二人は笑う。
「私たちの準備の間、店長のところにいるって言ってたのは、浴衣を着せてもらうためだったんだね」
「ううん。そういうわけじゃなかったんだけど、話の流れで着せてもらえることになって。最後に、いい思い出になるだろうって」
「そっか。……うん、すごくいい」
こうして外で待ち合わせるのも、浴衣姿も、とても新鮮でドキドキしてしまう。
星奈はその胸を高鳴らせる感情にだけ集中して、軋むような痛みは意識しないようにした。
意識しても、終わりは来る。それなら、できるだけ楽しいことにだけ集中して、残りの時間を幸せに過ごしたいと思ったのだ。
「もうっ! 何で金子は普通の服なの!? 今日は祭りだよ! もっと気合い入れて来てよ!」
夏目は、いつも通りの格好で来た金子に腹を立てていた。せっかく可愛い浴衣を着ているのに、プリプリしている。
「まあまあ、夏目ちゃん。金子くんが着てなくても、夏目ちゃんが浴衣なんだからいいじゃん」
「篤志さんは黙っててください! てか、何で甚平なんですか!?」
「えー……」
甚平姿の篤志が、仲裁に入って八つ当たりされている。
どうなることかと星奈たちが見守っていると、それまでずっと眠そうに黙っていた金子がおもむろにスマホを取り出して、プリプリ怒る夏目の写真を撮り始めた。
「夏目、俺は自分の可愛い彼女の浴衣姿を撮りたいんだけど。できたら笑って欲しい」
「なっ……」
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