4人が本棚に入れています
本棚に追加
次の日、早く目覚めた私は、久しぶりに学生時代バイトをしていた喫茶店に足を運んだ。
通勤と同じ道を自転車でゆっくり走り、駅の横の歩道橋から線路を超え、国道に出ると海沿いのところに元バイト先、喫茶店マサはある。
重厚感がある木の扉を開け、カランコロンと鐘の音のあとにコーヒーの良い香りが漂ってくると奥から「いらっしゃい」とマスターの声が聞こえた。
玄関口からフロアーに進み、一段下がっている段差をおりると、カウンターの中央に黒い紺色のカッターに腰エプロン姿のマスターが立ち、ちょうどコーヒーを入れていた。
「おはよ、マスター」
マスターがこっちをむいた。
髪は真っ白で黒ぶち眼鏡とだんご鼻に、整った口髭が特徴的な顔が私を見るなり歯を見せ、にかっと笑った。
「おお、健人久しぶりだな。」
「久しぶり」
客は1人もいないのにマスターはコーヒーを
いれていた。
「誰の分入れてるの?」
「あ、これ?自分のだ」
「店員はインスタントだろ?」
「俺は特別なの、どれ、
モーニングでいいだろ?」
「うん、よろしくね。」
私がお気に入りの席に行こう背中を見せると、
「コーヒーはいれてやるから、
あとは準備しな!」
マスターはしれっと答えた。
「え~客だぜ?」
「元関係者は客じゃねぇよ。ほれほれ」
そう言って食パンの袋を渡された。
仕方なくカウンター側に周り、パンをトースターに入れ、冷蔵庫からサラダとゆで玉を取り出し、それぞれ皿に盛り付け、トースターのパンを取り出し、バターを塗って、その上から上白糖をスプーン一杯ふりかけ、皿に置き、それをトレーに全て乗せてから、またフロアー側に戻った。
そのタイミングで「はいよ。」とマスターがホットコーヒーを乗せてくれ、モーニングは完成した。
「これで350円はお手頃だろ。」
得意満面にマスターは言う。
「セルフじゃなければね。」
皮肉で返すもマスターは聞こえないふりをしているのか、自分のコーヒーを一口飲み、
「味よし。」
わざとらしく大きな独り言を言った。
そんなマスターを冷ややかな眼差しを送り、私はトレーを持ちカウンターから離れ、
瀬戸内の海と美しい明石海峡大橋を望むことができるテーブル席へと移動した。
最初のコメントを投稿しよう!