最悪のはじまり

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席に座るとちょうど大型船が明石海峡大橋の下を通り過ぎるところで、大きな汽笛を鳴らす所が見られ、橋も海峡大橋も朝の太陽に照らされてピカピカと光、とても美しい光景であった。 そんな絶景を見ながらコーヒーを一口飲む、キリッとした苦さが口に広がったと思うと苦味はスッと消えて、ほのかな甘みと香り高いコーヒーの風味が鼻を抜けていきつい、「うまい。」 そう口走ると私のあとを追って、テーブル席の前に座ろうとしていたマスターが、「そりゃよかった」とにかっと笑って答えた。 「それにしても今日はずいぶん早いじゃねぇか、いつも来るのは大抵夕方ぐらいなのに」 「今日は早く起きたから、たまにはモーニングもいいかなって思ってね。」 トーストを一口食べた。 「なるほど、じゃあ仕事は順調か」 マスターはコーヒーをすすった。 「まあまあかな、もう3年たつと自分のペースで仕事が出来るから、楽なもんだよ。」 印刷メーカーの営業をしている私は、1年目は新規飛び込みの仕事が多かったが、 3年もたつとルート営業の仕事がメインになり、 ノルマというストレスもほぼほぼなかった。 「順調はいいことじゃねぇか、じゃああれか?あっちの方は?」とマスターが小指を立てた。 私はすぐさまに首を振る 「へ?」 「いないよ。」 「え??なんだって」 マスターは耳に手をかざした。 「いないよ、いませんよ。」 ムキになって答えた。 マスターはわざと目を大きくして、 頬にフグみたいに空気を入れて腹を抱えて笑った。 「はっはは、前の子と別れて2年もたつって言うのに、まだお前は彼女がいないのか。合コンも行ってるんだろ?」私はうなづく。 「じゃあ、なおさらじゃねぇか、いつまでも彼女いなかったらホモだと思われるぞ。」 「仕方ねぇだろ、いい女がいねぇんだから」 「いい女ね、お前選び過ぎじゃねえのか?いい女なんかごまんといるだろう?」私は黙り込む。 そんな私の様子を見て「まあなんだ、確かに、前の彼女はいい女だったからな、あれ以上を求めてもなー難しいか」マスターは手を組み首を少し傾けて、うんうんと首を縦に振った。 「別に七海と比較してるわけじゃねぇよ、今はいい出会いがないだけなんだよ。」 久しぶりに彼女の名前を言葉に出したので、ふっと頭の中で彼女の後ろ姿を思い出した。
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