運命

1/1
23人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

運命

何故そんな残酷な運命を受け入れようと思ったのか。 幼い頃から繰り返し見た夢の中で、すでにわたしは恋に落ちていたのかもしれない。 たとえどんなに辛い別れが待っていようとも、その出会いを避けることなどできない。 たった一年。 わたしたちは愛し合い、子どもを授かる。 わたしはこちらで、この世界を支え続けなくてはならない。 あの人はここに留まる決意をしてくれるだろう。 けれど、わたしは彼をあちらへ送り返さなくてはならない。産まれたばかりの娘と共に。 何故なら…… こちらの世界とあちらの世界。 世界は古代の魔女と魔法使いによって二分された。 あちらの世界は人間たちが住む世界。 こちらには魔女や吸血鬼など、人間が怖れる魔物たちが住む世界。 二つの世界は、決して交わってはいけない。 わたしは魔女。 わたしの未来には哀しい別れが見えている。 何度も何度も夢に見た光景。 わたしの愛する人と、わたしたちの娘。 世界の均衡は崩れ始めている。 わたしの命が尽きる時、こちらの世界は失われるだろう。 年に一度開く、あちらの世界とこちらの世界を繋ぐ扉。 そこへあの人を向かわせるための準備を進めなくては。 「スターリー、お願いがあるの」 誰かにあちらの世界へ行ってもらわなくてはならない。 必要な物をこちらの世界へ送ってもらうため。 それに、彼らを迎えにきてもらうために。 妹のスターリーは快くその役目を引き受けてくれた。 その時のために子どもの名前も考えた。 キャロル きっとこの世界を救ってくれる救世主となる。 わたしがあなたにそんな役目を負わせることをどうか許して欲しい。 あの人と出会うことが運命なら、あなたが次代の魔女となることもまた、避けられない運命だから。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!