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桜が全て舞い落ちた葉桜の季節、学生の殆どはきっと新しいクラスに馴染んできた頃だろう。
ここ、夏港市は平凡――というには、少し廃れた郊外だ。そこのとある公立高校に少し不思議な力を持った少年が通っている。
葉桜が連なる通学路、その少年は尊んでいる親友を見つけて駆け寄った。
「おはよう、直火!」
着痩せしている親友の背中を笑顔で思いっきり叩く。直火には恋人がいるのだが、今日は珍しく一人で登校している。
「何だ、照夜か。びっくりしたな、もう……」
直火は痛そうに顔をしかめているが、怒ってはいない。照夜は直火の温厚さをよく知っていた。
「直火が一人って珍しいよね。立花さんは?」
あえて照夜は直火にそう聞くが、実はその理由をすでに知っていた。別に聞けないような理由ではないこともちゃんとわかっている。
「うん。今日、都は部活の早練で」
直火は肩を落としながら「俺、寝坊しちゃってさー」と力なく笑った。
「そっか」
直火の少し寂しそうな様子に、照夜は笑顔だが素っ気なくそう返した。
「久しぶりだね。二人で登校するの」
その表情のまま、話を続ける。「えっ。――まぁ、そうだな。たまに都と三人になるときはあったと思うけど、高校入ってからは初めてだな」
「うん。それもそうだけど、なんか昔を思い出さない?」
「昔って……。それ、大袈裟過ぎだと思うんだけど」
直火は呆れた表情で照夜を見る。
「えーっ、昔だよ! えっとね、確か中二の二学期辺りから直火と立花さんが付き合い出したから……」
照夜は少し考えて、今までの直火との登校を振り返る。照夜と直火は小中高と一緒の学校に通う幼なじみだ。クラスもこの高校に入学するまではずっと同じだった。
「大体ほぼ小学生ぶりだよ! 小学生ぶり!」
照夜はやや興奮気味に話す。
「いや、昔っていうほど昔じゃないだろ……」
それと対照的に直火は少し冷めた様子で苦笑していたが、ふと何かに思い出したのか「あっ」と声を出した。
「あーでも、もう都と三年以上経つのか。そんなに経ってるなんて気付かなかった」
「うわっ、何それ」
照夜は大袈裟に後退って見せた。そのあと、両手で口を覆って俯き、いかにも傷付いたと言いたげな表情を作る。
「俺より彼女との時間の方が大事なの!? ――そりゃそうだよね! やっぱり!!」
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