act.1 ボーイ・ミーツ・ガール

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「お、おう……」  勝手に怒って見せたのかと思ったら、自己解決。そんな百面相な照夜に、時々直火は反応に困ることがある。 「少し寂しいぞ! このリア充めーっ!」  照夜は直火の腕に軽く右ストレートを放った。当たっても大して痛くないが、なんとなく直火は避ける。  その結果、照夜は少しこけそうになった。拗ねた表情で直火を見る。 「本当にいいよなー、彼女。俺も欲しいなー。リア充になりたーいっ!」  口と表情ではさも羨ましがって見せているが、実際はそうでもない。今の生活で照夜は充分幸せだ。 「おう、頑張れ、頑張れ。恋人がいるって楽しいぞ」  そう口に出す直火がそんな自分の胸の内に気付いていないことを照夜は知っている。  そして、口では「頑張れ」なんて言ってる直火が本心ではそう思っていないこともわかっていた。  直火には恋人なんて頑張って作るものじゃないという持論がある。頑張って恋なんてするものじゃない、と。いつの間にか両想いになり恋人が出来て現在進行形で上手く行っている彼が信じて疑わない価値観だ。  それに、直火は照夜のことをモテる方だと思っている。その気になれば、恋人なんてちゃんと出来るという自信をかなり持っていた。  でも、それは直火の勝手な思い込みで、照夜は自身がいまいち他人の恋愛対象になれない人間だということを知っている。良い人止まりで、どういう訳か恋愛感情を抱かれたことは今まで一度もない。照夜は特にそのことを気にしてはいないが。  照夜はわざとらしく「いいなー、いいなー!」と口角を上げた。  照夜には色んなことがよくわかる。それは学校の授業や習い事では絶対に知ることが出来ないことで、普通の人は絶対に手に入れないものだ。それを照夜は重宝している。  心見(こころみ) 照夜(てるや)、十六歳。彼は何故か人の心を読む特殊能力を生まれつき持っている。その力で周りとの関係を上手く築き、彼らからのそこそこ高い評価を維持していた。  だから、妙に過剰な自信を持ち、自惚れながら楽しく高校生活を送っている。  これからも周りと上手く折り合いをつけて、大学生や社会人になるものだと照夜は人生を舐めていた。  ***  直火と別れて、照夜は自分の教室に入る。照夜はB組で直火はC組だ。 「おはよう」  教室に入り笑顔で挨拶をする。
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