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「はよっすー」
まず最初に反応したのは黒板の前で喋っていたショートヘアで猫の髪留めが特徴的な卯月さんだ。卯月さんと一緒に話していた彼女の友達二人も「おはよう」と照夜に返した。
そのあとすぐに三人はお喋りを再開する。その内容は卯月さんが黒板に描いた青いチョークで書かれた猫のキャラクターの名前は何だったのかというものだ。卯月さんは(うわっ、似てねぇ……)と密かに凹み、友達の一人は思い出せそうで出せない感覚に頭を悩ませていた。
そんな二人を横目に、卯月さんの友達のもう一人は(転校生ってどんな子だろう)と考えていた。
(転校生が来るんだ)
照夜は小さく笑う。どんな人だろうとわくわくして想像したり、挨拶をしながら皆の想像を見たりした。皆、転校生が来る以外に具体的なことは知らないようで、それぞれ理想の転校生像を作っている。皆といっても全員な訳はなく、転校生の存在自体知らない人や知っていても大して興味ない人も少なからず居る。
挨拶をそこそこして、照夜は自分の席に着いた。今まで照夜が転校生という存在に出会ったのは小学校と中学校でそれぞれ一回ずつ、合計二回くらいだ。なかなか珍しい存在で、いずれの場合も自分の力が役に立ったと思っている。
「おはよう、津田さん」
照夜は自分を横切ろうとした小柄な少女に声を掛ける。彼女の身体はびくっと揺れ、ぎこちなく照夜に笑ってみせた。
彼女はいつもたじろいでいるが、別に彼女が自分を嫌がっている訳じゃないことを照夜はよく知っている。
「こ、心見くん、お、おはよう……」
説明する必要もなく大人しくて人見知りが激しい彼女は津田 未来といって、クラスで孤立しやすい存在だ。当然、転校生が来ることを知らない。
「知ってる? 今日、転校生が来るんだって」
「えっ?」
彼女は目を丸くしたあと「そ、そうなんだ……」と小さく言葉を発する。転校生の存在を知っても特に興味がないようだ。
「良い人だといいよね」
内心つまらなく思いつつ、顔は爽やかに笑って見せた。
「うん。お、女の子だといいな……」
未来は俯きながら、ぼそぼそと話した。興味はないが、どちらかといえば女子の方が良いと思っている。男子は少し怖い。――正確には、ある特定の男子がかなり苦手で男子全体を怖がっている。
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