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「優しい人が良いよね」
照夜の言葉に未来はこくりと頷く。その特定の男子は照夜のことではない。未来の照夜に対する評価は“好青年”だ。誰にでも優しくて、こんな自分でさえも気さくに話し掛けてくれる“いい人”だけど、男子だからやっぱり怖い。
ホームルームを告げる予鈴が鳴り始める。未来は「あっ、じゃあ……」と自分の席に慌てて向かった。
いよいよ転校生が来る。照夜は神経を集中して、転校生の心の声を聞こうとした。心の声は基本的に否応なしに聞こえてくるものだが、多少の集中力で想像図が見れたり遠くにいる人間の心の声が聞くことが出来る。
(うん、やっぱり変わってないな。ここ)
口数は少なめだが、転校生らしき人間の声が聞こえた。落ち着いた少女の声だ。内容から最低限一度はここに来たことがあるようだ。恐らく、ここっていうのは学校ではなくこの町のことだろう。
教室の戸が開く。いつも通りスキンヘッドで少しふくよかなジャージ姿の担任が入ってきて、そのあとから転校生の少女が現れた。
まず、照夜が最初に目に付いたのはすらっとした立ち姿だ。背筋がぴんと伸びていて、手足は細く長い。恐らく自分と同じくらいの背の高さだろうと照夜は思う。薄い茶色のウェーブがかかった髪を後ろに緩く纏めている。
堂々と落ち着いている。照夜は彼女を目にして感じたことだ。それは葉が繁る老木のような雰囲気だと思った。
ざわざわとした教室はいつの間にか静かになり、担任が黒板の真ん中に『世良 けせら』と書く白いチョークの音が聞こえてくる。
「お前ら、今から転校生を紹介するぞー」
担任の野太い声が教室に響いた。
「初めまして。世良 けせらと言います。中途半端な時期ですが、大阪から来ました」
けせらの声は雰囲気と違わず、何処か堂々とした落ち着いたものだった。
思わず、照夜は心の中で(せらけせら……。ケセラセラ……)と心の中で呟いていた。
「よろしくお願いします」
教室が拍手に包まれる。照夜も勿論、皆と合わせて拍手している。
「皆、仲良くな!」
担任がそう言ったあと、けせらに話し掛け先生の目の前の列の後ろにある席を指差す。その席は昨日までなかった、照夜が知らない間にいつの間にか出来た席だ。
けせらは頷き、自分の席に向かった。
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