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ひょいと人の間を縫って、けせらの机の前に立つ。座っているけせらは照夜を見て、少し顔が引き攣った。
「心見 照夜っていうんだけど、よろしく」
「よ、よろしく……」
照夜の笑顔にけせらもぎこちなく笑い返している。それを見て、照夜は少し安堵した。もしかすると、あからさまな不快感を示されるかもしれないと考えていた。
「わからないことがあったら何でも聞いて。遠慮とかしなくていいからさ」
けせらは少し照れたように「ありがとう」と答える。
(なんか、普通に親切な人だ……。さっきのアレ、空耳だったのかな)
そのあと、けせらのそんな心の声が聞こえてきた。照夜は思わず一瞬だけニヤリと笑ってしまうが、すぐに爽やかに笑うように心掛けた。
話を続ける。
「少し失礼かもしれないけど、関西弁じゃないんだね。話し方」
「えっ、うん。別に大阪出身って訳じゃないから」
「あー、転勤族って奴?」
「いや、そんなんじゃなくて……」
けせらが困ったような顔を微かにした。唸るような(なんて言えばいいのかなー?)という心の声も聞こえてくる。
「うちの父親、凄く変わってて」
けせらの言葉に照夜を含めてけせらの机を取り囲んでいた人間がきょとんとした。
「いわゆる、アート系? っていうのかな? 絵とか粘土細工とか作ってて、それで色んなとこに行ったり住んだりしてたんだよね」
その話に、ふわふわとして暖かい雰囲気を纏う少女が目を輝かせた。黒髪を二つ結びにしていて、くるっとしたアホ毛が目立つ。スカートは短くしているが、下にジャージを穿いていた。心の声はひたすら(わーっ! わーっ!)とはしゃいでいる。
「色んなとこって? 海外とか?」
アホ毛を揺らし、天使井 真白はけせらに声を弾ませそう聞いた。
「き、基本的には日本国内だけど、海外なら近場なら大体行った、かな?」
真白の勢いにけせらは少したじろぐ。それとは対照的にかえでは「わわーっ!」と嬉しそうだ。
「すごいすごーいっ! グローバルだーっ」
真白は心の中でも同じことを思っている。照夜の中では天使井 真白は裏表がない人間だ。一見凄くアホっぽく見えるが、結構油断ならない性格をしているとも思っている。純粋な性格ゆえに言葉が無邪気な凶器と化すときがある。激しく好き嫌いが分かれるタイプだ。
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