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--- 景子 Side
あれから、一ヶ月。
いろいろ大変だった。事件を聞いて、園長先生が訪ねてきてくれた。敦の葬儀だけじゃなく、母さんの葬儀やら手続きをやってくれた。
話を聞くと、敦は少年院を出てから、孤児院に戻って来て、孤児院に住んで、手伝いをしながら、夜間学校に通って、昼間は卒園者の会社で働いていた。園長先生がいろいろ教えてくれた。私にも、孤児院で働いて欲しいと言ってくれた。母さんが居ない部屋に帰るのが辛かった事もあり、園長先生に甘える事にした。
独りになるのが、怖かった。
母さんを刺したのは、敦と対立していた不良グループの人間らしい。
警察が教えてくれないのだ。園長先生も問い合わせをしているが、”ダメ”という返事だけだ。私は、前に進むこともできないらしい。事情がわからないまま、時間だけが過ぎていった。
園長先生や、孤児院の人たちは、私に優しくしてくれる。
でも、その優しさは、敦から感じた、対等の優しさではない。可愛そうな人への優しさなのだ。母親と”婚約者”を同時に失った、可愛そうな”盲目の女”。それが私なのだろう。そんな事は望んでいない。望んでいないが、そう見えるのはしょうがない。
敦や母さんは、怒るかも知れない。
でも、二人の居ない世界にいてもしょうがない。敦さえいてくれれば、私は良かった。親不孝かも知れないけど、心からそう思う。
園長先生や孤児院の人たちに、”さよなら”は言わない。言ってもしょうがない。もう会えない。
私は決めた。
敦と母さんに、”さよなら”を、言いに行くと・・・。
そして、次に再開した時には、絶対に握った手を離さない。
何度でも、言うよ。”さよなら”
敦。”さよなら”
母さん。”さよなら”
また、会おうね!すぐに、行くから、待っていてね。約束だよ。
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