取られる事の無いコール

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 景観がいい場所にも連れ出してくれていた。見えないのだからと渋る景子を、”景色が見えなければ、全部僕が教える。風や音や熱を感じればいい”そう言って、景子をいろんな所に連れ出した。景子が、楽できるようにと、車も購入したのだ。  敦は、景子に、出会ってから、いろんなモノを与えてきた。  景子が、街中で佇んで泣いていたのに、声をかけたのが最初だった。ただの親切心なのか、下心なのか、敦本人もわからないのだろう。その時には、”声をかけないとダメ”と思った。景子が落ち着くまで、敦は話を聞いた。全部話し終わってから、敦は、景子を家まで送っていくと言った。実際には、最寄り駅まで送って、母親に引き渡したのだが、敦は別れ際”さよなら”と口にした。  景子は、やっぱりまた、”さよなら”なんだと・・・敦の手を握ってしまった。  敦は、優しく景子の手を握り返して、”お母さんに、僕の連絡先を伝えた。景子さんさえ良ければ、僕に連絡してきて”、それが嘘なのか、本当なのか、景子には判断できない。敦は、さっき”さよなら”と別れの言葉を口にした。もう、敦には会えない。  ”景子さん。さよならは、別れの言葉じゃないですよ。また会う約束の言葉です”  景子にとって、それは敦との繋がりを感じる事ができる言葉だ。     
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