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第十二章 父の病気
湧き出てくる気持ちに合わせて、大泣きするのを必死で抑えた。この涙の攻撃にかなう男性は、この世界に一人もいないのではと思わせた。
探偵業を営むクールな木村が、あたふたとしていたのだ。
「違うよ、真利ちゃんの勝手な想像だ」
その返事に、顔が緩みかけた。
「うっ、うっ……」
「おいおい、酔うのにはまだ早いよ。それに、何で一方的に泣いて、焼け酒するんだよ。人にキツイこと言う割りに、想像で泣くなよ。それと、高校時代の『おまえは何々だ』って、言った事、悪かった。謝るよ。君の性格がやっと分かってきた。ごめんだって……」
少女のように頷いた。
「お願い。私の話も聞いてくれる? 真面目に聞ける?」
「ああ、何を? えっ、なっ、悩み? とか」
木村は急に切り出してきた言葉を受け止める用意ができないのか、どうしたらいいのか、分からなくなっているようだ。
「私が高一の時、父が肺の病気になったの」
遠くを歩く中年の男性を見つめながら話し始めた。
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