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それから数日。
次は彼にどんな花の絵を贈ろうかと、胸を躍らせる日々を過ごしていました。
これまでに渡した絵は、白いツツジの『初恋』に始まり。
ベゴニアの『片想い』――もしくは『愛の告白』。二つの想いを重ねてみたり。
赤いアネモネの『君を愛す』なんて、ちょっぴり情熱的過ぎたかなと、後になって自分の頬も赤く染めてしまいました。
ふと気が付けば、湊くんのことばかり気にしてしまうようになっていました。
私の席が窓際かつ後ろの方であるのをいいことに、授業中にも彼を見つめ……時々その姿をノートに描いてしまっていたり。休み時間には読書をする振りをしながら、こっそりと目で追ってしまっていたり。――そう丁度、今の様に。
「いや和弥、オマエそりゃねえって!」
「ほんっと。バカだろ、カズ」
どっと笑い声が上がりました。クラスメイトたちの輪の中心にいる湊くんが、何か面白い冗談でも言ったようです。
そんな彼の笑っている横顔を見つめながら、つい考えてしまいます。
――和弥くん。カズくん。
そんな風に、私も呼んでみたい。
私のことも『藤川さん』じゃなく、下の名前で――『由香里』って、呼んでみて欲しい。
ぼーっとそんな妄想をしつつ、じーっと長いこと見つめてしまっていたせいで、湊くんが私の視線に気づいてしまったようです。にっこりと微笑んで、手を軽くひらひらと振ってきました。ばっと慌てて本で顔を隠します。
突然妙な行動をした湊くんに、お友達が「なにしてんの?」って不思議がっていましたが、「いんや、なんでも?」と、彼はどこ吹く風と笑うばかりでした。
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