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試合の前日。
いつものように部活を終えた湊くんを温室にて迎えます。休憩を兼ねて、しばし他愛の無い会話を少々行ってから、触れるべき話題を持ち掛けました。
「いよいよ、明日ですね」
「だね……あー、けっこー緊張してきた」
そう言って、おどけたように笑いかけてきます。あまり緊張してるようには見えません。でも、こちらの用件を切り出すタイミングとしては助かります。
「こういう時、本来ならばお守りとかを渡すのがポピュラーなのかもしれませんが……」
「あっ。もしかして例の物?」
素早く身を乗り出してくる湊くん。その単語はなんだか怪しげな取引に聞こえてしまいそうです。
今しがた私が言ったように、お守りとも悩んだのですが……私と彼の間柄ならば、これの方が渡すのも自然ですし、喜ばれると思いましたし。湊くんが言うところの、『例の物』にしておきました。
「これでは、お呪いや験担ぎ……とかにはならないかもですけど」
「藤川さんの絵、そこらへんの縁起物より御利益ありそうだよ」
「うぅん。そうだといいのですが」
「でも実際そうだし。いつもすっごく元気貰えてる」
「あ、あはは……」
この方はどうしてこうも平然と恥ずかしい台詞を口にできるのでしょう。たまには私の心臓を労わって欲しいものです。
「まぁともかく。どうぞ、お納めくださいな」
――花言葉。それは必ずしも、恋にまつわるものだけではありません。
例えば、今回描いてきた――月桂樹。古代ギリシャではその葉を用いて『月桂冠』を作り、勝者や有能な方を称えて〝勝利〟や〝栄光〟のシンボルとして授けていたそうです。
私もそれに倣ってみました。湊くんの勝利を願い、栄光を掴めるようにと。花に、そんな想いをのせて。
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