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試合の展開は、全くの五分もいいところでした。
ほぼ毎ゲームがデュースになりながら、フルセットになってしまい――最終セットである現在は、タイブレークというものにまでもつれ込んでしまったようです。……と、近くで他の観客の人が言ってました。
かなりの長期戦に、湊くんも相手の子も疲労の色が隠しきれない様子でした。完全に気力と気力の勝負になっているのが、素人目にもわかります。
「マッチポイントだ、湊!」
「ラスト一本!」
湊くんを応援する、テニス部の人の声が上がりました。彼はそれを受けてか、一層鋭い眼光で相手を見据えます。
次のポイントを取れれば――湊くんの、勝ち。観客の皆さんも……当然私も、緊張した面持ちで見守ります。
審判によるコールの後……湊くんの力強いサーブが放たれました。相手はかろうじて拾ったという感じで、畳みかけるよう湊くんの強打が――しかし今度は向こうも余裕を持った返球です。それを皮切りに、激しい打ち合い転じてしまいました。
お互いにもう限界でしょうに、ここに来て凄まじいラリーが繰り広げられます。勢いよく飛び交うボールを目で追うのに必死で、息をする事すら忘れてしまいます。
私は無意識の内に胸の前で、祈るように両手をギュっと握っていました。
……おねがい、月桂樹。
湊くんに授けて……勝利と、栄光を――!
――パァンッ!
一際小気味良い音がして、今日一番かと思われる打球がコートへ突き刺さりました。それを拾おうと必死に伸ばしたラケットの先を掠め、その後ろにある鉄製の網へ、ガシャン! と、ボールがぶつかります。
訪れた静寂の中、審判の人のよく通る声だけが、はっきりと大きく響き渡りました。
『ゲームセットアンドマッチ、ウォンバイ、湊。セットカウント2-1』
放心したように立ち竦み、肩を大きく上下させていた湊くんが――不意に、グッと拳を握りしめました。そしてゆったりとした動きで振り返り、私へその拳を見せつけてきます。
疲労を全く感じさせない、この上なく晴れやかな笑顔と共に。
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