この花に想いをのせて

2/25
前へ
/25ページ
次へ
 ――そして、現在は放課後。  帰宅部である私は、本来ならば早急に帰宅すべき義務を負っているのでしょう。しかしここ最近の私は、とある場所へ通うことが日課となっていました。  それは――学校の敷地内にある、古めかしい温室です。  ここには多種多様な花が咲き、良い塩梅(あんばい)に非現実感が溢れていて……幻想の世界に紛れ込んでしまったような、神秘的で心地よい感覚を味わわせてくれます。  そんな場所で私は、読書に勤しんだり、その場に咲いている花のスケッチをしたりしていました。  私だけの、秘密の花園。そこで行う、たったひとりの部活動。  傍目には何とも寂しい光景に映ることでしょう。しかし私にとっては何とも自由で有意義な、この上なく幸せなひとときでした。  さて、っと。今日は何を描きましょうか。  スケッチブックを広げながら、咲いているお花一つ一つをじっと眺めていきます。綺麗なお花が沢山ありすぎて、いつもながら目移りしてしまいますね。  ん~……これにしましょうか。  今回、目に留まった花は――『ポピー』。パッと見は薄い紙でできた作り物のように見える、空を向いて健気に咲く姿が微笑ましい、10㎝程度の可愛らしいお花。品種によって『ヒナゲシ』って名前だったりもするみたいです。  早速スケッチに取り掛かった私は、自然と頬を緩ませます。好きな時に好きなものの絵が描けるって、本当に素晴らしいことだと思うんです。  そんな感じで上機嫌にも鼻歌を歌いつつ、さらさらと筆を走らせていると―― 「――おぉー、すっげ。こんなとこあったんだ」
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加