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――そして、現在は放課後。
帰宅部である私は、本来ならば早急に帰宅すべき義務を負っているのでしょう。しかしここ最近の私は、とある場所へ通うことが日課となっていました。
それは――学校の敷地内にある、古めかしい温室です。
ここには多種多様な花が咲き、良い塩梅に非現実感が溢れていて……幻想の世界に紛れ込んでしまったような、神秘的で心地よい感覚を味わわせてくれます。
そんな場所で私は、読書に勤しんだり、その場に咲いている花のスケッチをしたりしていました。
私だけの、秘密の花園。そこで行う、たったひとりの部活動。
傍目には何とも寂しい光景に映ることでしょう。しかし私にとっては何とも自由で有意義な、この上なく幸せなひとときでした。
さて、っと。今日は何を描きましょうか。
スケッチブックを広げながら、咲いているお花一つ一つをじっと眺めていきます。綺麗なお花が沢山ありすぎて、いつもながら目移りしてしまいますね。
ん~……これにしましょうか。
今回、目に留まった花は――『ポピー』。パッと見は薄い紙でできた作り物のように見える、空を向いて健気に咲く姿が微笑ましい、10㎝程度の可愛らしいお花。品種によって『ヒナゲシ』って名前だったりもするみたいです。
早速スケッチに取り掛かった私は、自然と頬を緩ませます。好きな時に好きなものの絵が描けるって、本当に素晴らしいことだと思うんです。
そんな感じで上機嫌にも鼻歌を歌いつつ、さらさらと筆を走らせていると――
「――おぉー、すっげ。こんなとこあったんだ」
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