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「それはね――〝これ〟のお陰、かな」
「これ?」
そう言ってスマホを取り出し、画面を見せてくれます。そこに映っていたのは――昨日あげた、月桂樹の絵の写真でした。
あの時、スマホを弄り出していたのは……これを見るため、だったのですか……?
「試合直前にこれ見たら、なんか一瞬で気持ちが落ち着いてさ。その後に藤川さんの顔が見れたら、もう完璧。身も心も軽くって軽くって。おかげで普段以上の力を発揮できたと思う」
「ま、またまた。湊くんはいつも大げさなんですってば……」
「いやほんと、藤川さんがこれを描いてくれたからだよ。……俺の『勝利』を願って、さ」
――うん?
気のせいでしょうか。いま、なにか……聞き捨てならないようなことを口にしたような。
「あ、あの……?」
「『勝利』、なんでしょ? 月桂樹の――『花言葉』」
「――――ッ!?」
声にならない悲鳴を上げます。頭の中が真っ白になりました。
「なっ、なん……っ! い、いいいいつ、からっ……!?」
無意識に疑問が口から零れ出してます。慌てふためいてしまい、さっぱり呂律が回りません。
それでも彼は察してくれたようで、笑いながらかいつまんだ説明をしてくれます。
「うちって家族揃って花が好きなんだけど、中でも姉ちゃんがフラワーコーディネーターとかいう仕事やってるから、色々詳しいんだよね。それで、ほんの……一週間ぐらい前かな。藤川さんの絵のことに気づいて、教えてくれたんだ」
初めて言葉を交わした日、湊くんが温室に――花に興味を持たれていたのは、ご家族の影響でございましたか。すごく納得の理由でした。
「その時はまだまだオレも姉ちゃんも半信半疑だったんだけど……この月桂樹の絵を見せたら、もう間違いないって。めっちゃからかわれた」
――〝合ってる、かな?〟……そう問いかけるように、無言で見つめてきます。取り繕える心の余裕など皆無な、私のこの様を見てしまえば、もう一目瞭然でしょう。
心なしかホっとしたように、湊くんは溜息を吐きます。釣られて私も大きく溜息を吐きました。こちらの理由は『観念して』です。
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