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時は放課後、場は温室。それは普段ならば心休まるひとときであるはずなのに……今の私はドキドキソワソワ、さっぱり落ち着けません。
よくよく考えてみれば、『また明日ね』――そう言ってくれた湊くんが、今日もここに来てくれる確証なんてないのに。単に同じクラスだから、教室でも会うからとそう言っただけかもしれないのに。
でも明日以降になってくれるというなら、少なくとも今よりは気持ちも落ち着くことでしょう。心の準備期間だと思えば、なかなかどうしてありがたいものです。
「や。早速来ちゃった」
そんな私の胸中を嘲笑うかのように、彼の声がしました。先日同様、私はビクっと身体を跳ねさせてしまいます。その時は単に驚いただけでしたが、今の私のテンパり具合はその時の比じゃありません。
俯いたまま反応がない私を心配してくれたのか、湊くんが再度声をかけてきます。
「藤川さん?」
「あ、あのっ……! よっ、よかったら、これ……!」
酷く錯乱してしまった私は、挨拶をするのも忘れて突然立ち上がり、描いてきたバラの絵を両手に持って表彰状を渡すかのポーズを取りました。
そんな奇行に、さすがの彼も戸惑いを隠せない模様で。
「これ、って……くれるの? 俺に?」
こくこく、首を縦に振ります。
切り出すタイミングを確実に間違えたことに今更ながら気がつきますが、時既に遅し。たぶん――私の顔、耳まで真っ赤だと思います。すっごく熱いです。
なるべくその顔を見られないように、地面と水平になるまで深く頭を下げて絵を差し出します。
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