この花に想いをのせて

9/25
前へ
/25ページ
次へ
「バラかあ、いいね。花って言ったらコレ! って感じがして」  それを手に取ってくれたのを感じると、私は色んな意味で力を緩めます。絵がするりと彼の元へ渡り、まじまじと眺めてくれていました。 「でもオレンジって珍しい。あんまりこの色のイメージなかったけど、なんかいいかも。しっくりきてる」  ――あなたが笑ってくれた時、その背後に見えた夕日の色にしたんです。  そんなことを伝えられるはずもなく。当然、その絵に込めた本当のメッセージだって、伝えられるはずもありません。  『私はあなたに、一目惚れをしてしまいました。』  この絵は――臆病な私が、ほんの少しだけ勇気を出して、人生で初めて綴った、〝ラブレター〟です。  あなたがその意味に気づいてくれる日は、たぶん訪れないのだと思います。  花に――花言葉に、想いをのせて。我ながら思ってしまいますが、そんな回りくどいやり方では、気づいてくれと言う方が無茶でしょうから。  けれど……芽生えてしまったこの想いの行方がどうなろうとも。たとえそれが、咲いても実をつけない〝徒花(あだばな)〟となろうとも。  私は生まれて初めて他人に興味を持ち、初めての恋をしました。  それはきっと、素敵な青春の一ページに刻まれ、かけがえのない思い出になってくれる。そう信じて踏みだした、自らを心から応援してあげられる一歩でした。
/25ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加