第二章 末広がり

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 瑞円はその代金を見ながら数える。ひい、ふう、みい……。 「なあ、これじゃあ足りねえ。おれの分がねえ」 「何でおぬしの分までわしが払うのだ」 「だって、おれにゃあ持ち合わせがねえ」 「無いのになぜ何か食おうと誘う。意地汚い。物を乞うのになぜ似た者からたかるのだ。ええい、いたし方無い」  全休はむっとしているのか、巾着から銭を取り出すと乱暴に置いた。巾着をその紐で巻くのも荒々しい。  全休はさっさと歩き出した。 「なあ、待ってくれ。島田宿へ行きてえ」 「なぜ付いて来る」 「いいじゃねえか。なあ、親爺さんは女護ヶ島へ行きたいのだろう。喜多川に会うまで付き合ってくれたら、女護ヶ島へ案内する。どうだ」 「女護ヶ島など、無いと言ったではないか」 「あるんだな、それが。吉原さ」 「それならおぬしがさっきも言ったであろう。だからこれから一人で参る」 「まあ、待ちねえ。吉原にゃ、仕来たりってもんがある。親爺さん、知っていなさるかね」 「知らぬとも誰かに聞けば良かろう」 「何言ってんだい。そんな事したら、虚仮にされるだけさ。親爺さん、元は侍だ。町人風情に馬鹿にされたいのかね」     
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